氷に線を引いて切り出しているあのひと、何してる?

2021.06.03 あのひと何してる?

天然氷づくりの職人(てんねんごおりづくりのしょくにん)

写真は、栃木県日光市の山奥にある天然氷の池。氷は冷凍庫でつくるイメージがあるけれど、自然の厳しい寒さを利用してつくるものもあるんだ。天然氷には1000年以上の歴史があって、清少納言の『枕草子』に「あてなるもの(雅なもの)」としてかき氷が登場しているんだって。伝統ある天然氷は、職人が途方もない手間をかけてつくっているよ。(写真提供/四代目徳次郎)

清少納言も食した天然氷。冬の寒さの恩恵を受けて収穫


天然氷は、採氷池へ、厳選した水を引き入れて凍らせてつくります。採氷池の場所は、太陽が直接当たらない、冬は氷点下5度程度になるほど寒くて雪が少ない、きれいな水があることが条件です。


天然氷づくりの職人は、11月から採氷池周辺の草刈りなどを始め、12月には採氷池に湧水を注ぎ寒波で凍らせます。氷が一面に張って上に乗れるようになったら、朝暗いうちから山に入って、トラックいっぱいにきれいな雪を積んで氷の上にまきます。まいた雪に表面の細かなちりやほこりを絡めて、掃き清める作業を毎日繰り返す、こまめな管理をしているのです。

毎日掃かないと、冷気が下へ伝わりにくい。雪が降って氷の上に積もったときも、雪がやむまで夜通し雪かきをする

ただし、氷の張り始めに、雨、雪、風があると水面が揺れて良い氷に育ちません。寒さが弱いときも、やわらかで溶けやすい氷になることがあります。そのような場合は、採氷池に入って氷をすべて割り流して一からやり直すため、精神的・身体的にも過酷です。


約2週間かけて厚さ14㎝になったところで、最初の写真にあるような電動カッターで、縦45㎝×横65㎝の寸法に氷を切り出します。1枚約40㎏の氷を1枚ずつ池から引き上げ、レールの上を滑らせて氷室(ひむろ:氷を保管する小屋)まで運ぶ作業は、ひたすら重労働。氷点下なのに、汗だくになるほどです。氷室ではおがくずがかけられ、蔵出しまで保存されますが、おがくずをかけることで氷の表面が乾き、長期保存できるようになります。自然の恩恵を受けた古来の製造法は、ほとんど電気を使用しない究極のエコといえます。切り出しは4日間行われ、約5000枚の氷を収穫します。

採氷池から氷室まで、氷を滑らせて運ぶ竹のレールは手づくり。切り出し作業は、県内外から来るボランティアも手伝う

ゆっくり時間をかけてつくられる天然氷は、結晶が大きく、不純物を押し出しながら凍るため、透明で硬く溶けにくいのが特徴です。全国の飲食店やデパートへ出荷され、かき氷にすれば綿菓子のようなフワフワ食感が楽しめます。

どうしたら天然氷づくりの職人になれるの?


日本にわずか5~6軒ほどしかない蔵元を訪ねて、実際の作業をしながら技術と経験を積みます。

協力/四代目徳次郎

取材・文/内藤綾子