キャップにゴーグル姿でフラスコを手にしているあのひと、何してる?

2020.12.25 あのひと何してる?

貴金属の分析員

“貴金属”と聞くと、宝石やコインなど、キラキラした宝飾品をイメージするかな。貴金属とは、金、銀、白金(プラチナ)、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムという8種類の金属のことだ。希少性が高い、文字通り“貴重な金属”。世の中の金属製品に、どれだけ貴金属が含まれているのか調べるのが貴金属の分析員だよ。(写真提供/田中貴金属工業株式会社)

「都市鉱山」を掘り起こし、貴金属資源のリサイクルに貢献


貴金属は、一般的に鉱山の鉱石から産出されます。ところが、日本は貴金属がほとんど産出されない資源小国です。貴金属は、指輪やネックレス等のジュエリーだったり金の延べ棒だったりというイメージがあるけど、実は、テレビ、パソコン、ゲーム機、携帯電話、車など、私たちの身の回りにある製品の素材や部品の中にも使われています。これらが廃棄されたスクラップには、鉱石からとれるよりも多くの貴金属が含まれているため、私たちが住む都市にはたくさんの資源が眠っていて、それを都市にある鉱山に例えて「都市鉱山」と呼び、リサイクルが行われています。


都市鉱山のスクラップから貴金属をリサイクルする過程で、どの貴金属がどれだけの量含まれているのかを調べるのが分析員の仕事です。工場へ持ち込まれるのは、電子機器メーカーで不良となった製品や端材、めっき廃液、パソコンや携帯電話などの基板、ジュエリーや工芸品、歯の詰め物などさまざまです。たとえばパソコンのCPU基板(約25g)には、製造年によりますが約0.1gの金が含まれています。


それらはすべて、硝酸(しょうさん)や王水(おうすい)といった酸で液状にする、金属の塊は高温で溶かす、ふるい分けや粉砕で粉末にするといった方法でできるだけ成分を均一にし、一部をサンプルとして分析員が受け取ります。


分析の方法は、サンプルから貴金属だけを分離してその重さをはかる「重量分析」、測定機器を使う「機器分析」、化学反応を用いた手法「滴定(てきてい)分析」の3つがあり、濃度や不純物の量に合わせて分析法が選ばれます。重量分析や機器分析は、貴金属の種類やその割合、含まれる量や不純物などを正確に分析。滴定分析では、貴金属の濃度がわかります。1つのサンプルは2回以上分析し平均値を報告しますが、それぞれの数値がバラバラだったり、ほんの少しでもおかしいと思ったら再分析します。

金の重量分析で、サンプルから取り出した金を精製する作業

製品に含まれる貴金属は、「ppm(100万分の1)」という割合で表される超微量の世界。この仕事には、目に見えないものの量を測って数値化する面白さがあります。同時に、貴金属は相場によって常に値動きをするので、お金そのものを測定しているような緊張感もあります。分析員は、都市鉱山を掘り起こし、捨てられるモノと価値あるモノの架け橋となっているのです。

どうしたら貴金属の分析員になれるの?


高校や大学で学ぶ化学や物理はもちろん、統計的な手法を用いるため数学の知識も深めておくとよいでしょう。貴金属メーカーなどに就職し、分析の原理を学んだり、分析機器を取り扱いながら技術を深めます。

協力/田中貴金属工業株式会社

取材・文/内藤綾子