もうからないけど楽しい仕事、もうかるけど嫌な仕事、どっちがいい?

2020.10.29 おしごと映画

しごとについての質問

「もうからないけど気分よく楽しくできる仕事と、もうかるけど嫌な仕事だったら、どっちがいい?」(16歳・男子)

中山治美(なかやまはるみ)さん

スポーツ新聞記者を経て、フリーの映画ジャーナリストに。映画サイト「シネマトゥデイ」ほか、多数の雑誌で連載。世界の撮影スタジオ、映画祭を取材中。

答えは明白です。どちらもダメです。


『家族を想うとき』

監督:ケン・ローチ

出演:クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッドほか

提供:バップ、ロングライド

発売・販売元:株式会社バップ

価格:Blu-ray 4,800円(税別)/DVD 3,800円(税別)

©Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve,British Broadcasting Corporation,France 2 Cinéma and The British Film Institute 2019

『エリン・ブロコビッチ』

監督:スティーヴン・ソダーバーグ

出演:ジュリア・ロバーツ、アルバート・フィニーほか

デジタル配信中

価格:Blu-ray 2,381円(税別)/DVD 1,410円(税別)

発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

だって労働の基本は、環境も良く、それなりのお金をもらえることですもの。何かを我慢しながら働くというのは、本来はあってはいけないことです。でも悲しいかな。確かに、理想と現実は違います。


気持ち良く仕事ができるかできないかは、同じ仕事内容や職場でも人それぞれ感じ方が違いますので、まずは、なぜ賃金に格差が生じるのかを考えてみましょう。大きな要因の一つとなっているのが、正社員や契約社員、アルバイトなどの雇用形態の違いです。英国映画『家族を想うとき』で見てみましょう。


4人家族のターナー家は、マイホーム購入を夢みています。そこで父親リッキーは宅配ドライバーとして独立し、大手配送会社と個人契約を結びました。わかりやすく言えば、今流行のUberEatsの配達員みたいな感じです。母親アビーも、パートタイムの介護福祉士として働いています。2人は働けば働くほど収入を得られる計算です。


しかし良いことばかりではありません。リッキーの場合、仕事道具である配送車を用意するのも自分なら、仕事中の事故やけがといったトラブルも自己責任です。私用で仕事を休もうものならその分収入は減り、配送会社からは契約解雇までちらつかされます。アビーも交通費は自己負担です。遠く離れた介護先まで低料金で行けるバスを利用。加えて介護の仕事は、人の命を預かる非常に神経を使う仕事です。2人の頑張りはいつしか心身ともに疲弊を生み、家族の関係もギクシャクしていきます。家族のために働いているのに、なんとも悲しい事態です。


ケン・ローチ監督は、長年こうした社会の片隅で生きる人たちの心の叫びを描いてきました。ターナー家の例は、氷山の一角です。本来なら会社や組織のトップは、雇用した労働者全ての生活がより良きものになるように環境を整えるはずですが、労働者の “やる気”だけを搾取し、彼らが置かれている現状に見て見ぬふりをしている人たちがたくさんいることをこの映画は物語っています。


では、自分がすごく興味ある仕事なのに労働条件が納得いかない場合は、どのようにしたら良いのでしょうか。そのヒントを『エリン・ブロコビッチ』が教えてくれます。


本作は、学歴も資格もないシングルマザーが押しかけで法律事務所に入ったところから始まります。彼女の活躍によって、巨大企業を相手に集団公害訴訟で勝利し、多額の賠償金を得た実話をもとにしています。


弁護士は資格を得た専門職なので高収入ですが、彼女は裁判資料を整理するパートのおばちゃんに過ぎません。しかし資料を見て抱いた疑問がきっかけで、弁護士と共にアシスタントとして訴訟準備に奔走します。その過程で彼女は、仕事内容に見合った給与のアップなど労働条件の改善を要求するのです。やり方はちょっと強引かもしれませんが、雇用主との契約交渉は労働者の当然の権利です。


最近日本でも、長期勤務の非正規社員が、正社員と同等の退職金やボーナスの支給を求めて会社と最高裁判所で争った事例が大きく報じられました。『エリン・ブロコビッチ』は2000年に作られた映画ですが、ようやく日本も追いついてきたのかも? 


質問の答えを正しく言えば、どちらもダメ。「この二者択一のような状況が生まれない世の中に、私たちが変えていきましょう!」です。