就職して結婚して子どもを育てて家を買う。これって大変?

2020.09.30 おしごと映画

しごとについての質問

「就職して結婚して子どもを育てて家を買う。これって大変じゃないですか?」(16歳・男子)

中山治美(なかやまはるみ)さん

スポーツ新聞記者を経て、フリーの映画ジャーナリストに。映画サイト「シネマトゥデイ」ほか、多数の雑誌で連載。世界の撮影スタジオ、映画祭を取材中。

もちろん大変です。特に家は桁違いの買い物ですから


『マネー・ショート 華麗なる大逆転』

監督:アダム・マッケイ

出演:クリスチャン・ベール、スティーブ・カレル

発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

価格:Blu-ray 1886円(税別)

© 2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

『男はつらいよ ぼくの伯父さん 4Kデジタル修復版』

監督:山田洋次

出演:渥美清、倍賞千恵子、前田吟

価格:Blu-ray 2800円(税別)

©1989/2019 松竹株式会社

あっ、お気づきになりました?


ご両親が自分をいかにして育て、今の生活を築いたのか? それを考えたからこそ生まれた質問かと想像します。答えはもちろん、タイヘンですッ‼︎


特に最後の部分。家を買う=家という財産を得る。このハードルがめちゃくちゃ高い。実現するには働いて、節約しながら貯蓄してと、戦略的な資産運用能力がモノを言います。しかも家を買ったらゴール!とは限りません。桁違いの買い物なので、ほとんどの方が金融機関で住宅ローンを組んで融資を受け、20〜30年ぐらいかけて返済していくことになります。完済するまで元気に働ければいいですが、人生、何が起こるか分かりません。


後学のためにも、ぜひ見ていただきたいのが映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』です。同作は2008年に米国から起こった世界金融危機、通称“リーマン・ショック”で世間が大わらわになっている最中、巨額の利益を得た人たちの実話を描いたものです。


彼らが経済破綻(はたん)の兆候を読み取ったのは、低所得者向けの住宅ローン「サブプライム・ローン」の延滞率の上昇からでした(彼らは、収入の低い人たちが、ローンを返しにくくなっていると見抜いたのです)。金融機関は土地バブルがやってくることを謳(うた)って、返済能力があるのかろくに審査もせずに低所得者に高い金利で住宅ローンをバンバン組ませていました。ところが土地バブルが崩壊し、その結果、景気が悪くなって自分の収入は下がるのに、高いままのローンを払えなくなって家を手放す人が続出。金融機関はサブプライム・ローンを証券化した関連商品を投資家に販売していたため、影響が無限大に広がっていったという一大事件です。


詳細は映画を見ていただくとして、一説にはこの金融破綻により米国全体で800万人が失業し、600万人が家を失ったと言われています。リスクの高い商品を販売していた金融機関の責任も問われますが、いかに私たちが「家」にとらわれて、「家」に人生を捧げて生きているかを象徴する出来事だったとも言えます。


そんな人生やだ!と、思いましたでしょ? 別に“就職して結婚して子ども育てて家を買う”が人生の正解ではないですし、多様化の時代、生き方は人それぞれです。それを時代に先駆けて世に打ち出していたのが、俳優・渥美清さん演じる“‶寅さん”でおなじみの「男はつらいよ」シリーズです。


寅さんはトランク1つで日本各地で行われる祭りやイベントで商売をする露天商です。旅をしては女性と出会って勝手に失恋したり、たまに生まれ故郷の東京・葛飾柴又にふらっと帰ってくるも、恋に破れてまた旅に出て行く風来坊。口さがない柴又の人たちは寅さんのことをろくでもない人のように言いますが、おいの満男(吉岡秀隆)には違って映るようです。満男が将来や恋に悩んでいたシリーズ第42作『男はつらいよ ぼくの伯父さん』では、旅先で多くの見聞を得てきた寅さんから人生指南を受けることになります。


寅さんは、2019年にシリーズ誕生50周年を記念した『男はつらいよ 50 お帰り寅さん』が制作されるほど、私たちに愛され続けているキャラクターです。ここまで支持されるのは、“就職して結婚して子どもを育てて家を買う”にとらわれないその生き方に、本当は憧れを抱いている人が多いという証しかもしれませんね。