しごとについての質問
「ボールペンやカレンダーに知らない会社の名前がついている。あれってなぜ?」(9歳・女子)
児玉ひろ美(こだまひろみ)さん
*JPIC(ジェイピック):一般社団法人 出版文化産業振興財団
実は、無意識に読んでもらうための広告なのです
『ブレストガール! 女子高生の戦略会議』
著者:今井雅子
出版社:文芸社
価格:540円(税別)
ふと手にしたボールペン、いつも視界に入っているカレンダーなどにある、会社やお店、病院などの名前。それらは静かで音こそ出しませんが、実はテレビのCMと同じように、会社やお店の名前の宣伝(広告)をしているのです。見過ごしているようで、実は私たちは無意識にそれらを読んでいて、いつの間にかその名を「知っている」「よく聞く」「有名」と思わせる効果があるようです。そんな広告を考える仕事って、面白そうですね。
『ブレストガール! 女子高生の戦略会議』の主人公は高校生ですが、小学校高学年でも楽しく読める、エンタメ系お仕事小説です。ブレストとはブレーンストーミング(brainstorming)の略で、そのまま訳せば、brain=脳、storming=嵐で、「脳の嵐」。ひとつのテーマについて、複数の人が、いろいろなアイデアを出し合い、まるで嵐が吹き荒れるかのように互いの脳を刺激し、意見を出し合うことで、新しいアイデアを探ることを言います。
家と学校を往復するだけの生活に飽き飽きしていた高校生摩湖が、思いがけないことから外資系の広告代理店のブレスト会議に出席するブレーンになります。摩湖は、会議を通して、自分とは全く生活感や価値観の違う人たちと意見を交え、やがてはアイデアを具体的なカタチにする楽しさを知ることになるのです。業界のことを何も知らない摩湖と一緒に、読者も広告業界のことが、少しずつわかるようになる作品です。
頭の固くなった大人向け? 不思議なタイトルも宣伝の一つです
『みしのたくかにと』
著者:松岡享子
絵:大社玲子
出版社:こぐま社
価格:1200円(税別)
タイトㇽを読んで、すぐにピンときた方は、言葉に対し上級のセンスがあるか、訓練を積まれたかの、どちらかでしょう。『みしのたくかにと』では、ふとっちょおばさんが種をまき、そこにこんな看板を立てました。「とにかくたのしみ」。そこを馬車で通りかかった王子さまは、看板を逆さまから読んでいきます。普段から、“子どもは元気に遊ぶもの”と考えているおばさんの知恵とユーモアが、勉強漬けで青白い王子さまを元気で子どもらしい王子にする、幼い子ども向けの物語です。
どうですか? 物語や小説の最大の宣伝は、タイトルのセンスにあると思いませんか?(ボールペンに「みしのたくかにと」って書いてあったら、気になるでしょう)。そして、間違いに機転を利かしたおばさんの素晴らしさ! 頭が固くなった大人の私にも、大いに学ぶことが詰まった1冊です。