魔女になりたいです。どうしたらなれますか?

2020.02.03 おしごと映画

しごとについての質問

「私は魔女になりたいです。どうしたらなれますか?」(8歳・女子)

中山治美(なかやまはるみ)さん 

スポーツ新聞記者を経て、フリーの映画ジャーナリストに。映画サイト「シネマトゥデイ」ほか、多数の雑誌で連載。世界の撮影スタジオ、映画祭を取材中。

あなたが魔女の家系に生まれたとしても、そうすぐにはなれません


『魔女の宅急便』

監督:宮崎 駿

声:高山みなみ、佐久間レイ、戸田恵子

発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン

© 1989 角野栄子・Studio Ghibli・N

『西の魔女が死んだ』

監督:長崎俊一

出演:サチ・パーカー、高橋真悠、りょう

発売元:アスミック・エース

販売元:TCエンタテインメント

©2008「西の魔女が死んだ」製作委員会

質問を読んで、幼少時代を思い出しました。「わたしも憧れた時があった」って。というのも、筆者の幼少時代はアニメ「ひみつのアッコちゃん」に「魔女っ子メグちゃん」、さらにアメリカのTVドラマ「奥さまは魔女」など、魔女を主人公にした作品がたくさんありました。


鼻が日本人の平均より高い筆者は、「魔女みたい」とからかわれていたこともあり、自分も主人公たちと同じ呪文を唱えたら魔法が使えるのかも?と、淡い期待を抱いたものです。でも、アッコちゃんのように、コンパクトを開いて「テクマクマヤコン」とつぶやいても、「奥さまは魔女」のように口を左右にピクピク動かしてみても、何も起きません。のちに宮崎駿監督が手掛けたアニメ『魔女の宅急便』を見て、その理由を知りました。「魔女は血で飛ぶんだって」。つまり魔女の家系かどうかが条件なのです。猫が捕まえたネズミや、蛇にギャーギャー騒いでいる母親を見て、「その血はないな」と確信しました。イヤだったら、魔法で世の中から全て消しちゃえば良いんですもの。


ただ、もしあなたが先祖からの恵まれた力を受け継いでいたとしても修行は大事。歌舞伎俳優の家に生まれたからと言って、努力しなければ名優になれないのと同じです。


『魔女の宅急便』は、魔女の少女キキの、まさに修行の様子を描いた作品です。魔女は13歳になると見知らぬ街で1年間暮らすことが課せられます。キキが選んだのは、海に面した古都。その地でホウキに乗って空を飛べる能力を生かして、宅配便を始めます。


作家・梨木香歩の児童小説を映画化した『西の魔女が死んだ』の主人公まいは中学生。クラスの人間関係に疲れて登校拒否をしていて、しばらくの間田舎に暮らす祖母の家に預けられます。母親によると、英国人の祖母は魔女の家系で、通称‶西の魔女″。同じ魔女でもキキとは違って、予知能力や透視能力を持っているとか。魔女と言っても、タイプがいろいろあるようです。


自分にもその血が流れていることを知ったまいは、祖母の指導のもと、‶早寝早起きで、規則正しい生活を営む″という魔女になるための基礎トレーニングを始めます。自然に囲まれた暮らしの中で、ワイルドストロベリーを摘んでジャムを作ったり、たらいに水を張って足踏みしながらシーツを洗ったり。祖母との日常を通して、まいは大人への階段を一歩ずつ昇っていきます。


両作とも‶修行″と称しているのは、基本的な生活の営み。なぜこれが魔女にとって必要なのか。‶西の魔女″が説明しています。


「魔女にとって一番大切なのは意思の力。自分で決める力。自分で決めたことをやり遂げる力」。そのために生活の基盤を整え、精神力を鍛えるのが大事というワケです。もし魔女が気分次第で、好き勝手に魔法を使ったら、世の中が大変なことになります。だからこそ、心のしんをまっすぐに持たなければいけないと伝えているのです。『魔女の宅急便』でも、キキが街の若者たちに嫌悪の感情を抱いた瞬間、魔法の力が弱まるというシーンがあります。邪悪な心で魔法を使ってはいけないという戒めでしょう。


ところであなたは、どんな魔法をかけてみたいのですか? ちなみに‶西の魔女″は、未来を予見できる能力に気づいているけど、魔法を使わず自然と共存しながら質素に生活しています。「わたしは毎日のちょっとした変化が楽しいのです。だから変化を前もって知る必要はありません」。特別な能力を持つというのも、善しあしなのですね。