工芸官(こうげいかん)
みんなが使っているお札は、正式には「日本銀行券」というよ。140年も昔から国立印刷局(創設時は大蔵省紙幣司)がお札を作っているんだ。現在は、年間約30億枚のお札が日本銀行に納入され、金融機関を通じて世の中に出回っているよ。お札を作る工程に関わっているのが工芸官なんだけど、顔と名前は秘密なんだって。(写真提供/独立行政法人国立印刷局)
お札やパスポートなどをデザインする国家公務員
工芸官は、日本銀行券、パスポート、国債、収入印紙など、公共性の高い製品のデザインを担う国立印刷局の専門職員で、国家公務員です。これらを印刷するための原版彫刻も担当しています。
お札の場合、図柄を考え、筆や色鉛筆でお札のもとになる精密な絵(原図)を描きます。それをもとに、原版を作製。原版は、ルーペをのぞきながら、金属の板にビュランと呼ばれる特殊な彫刻刀で、肉眼では分からないほど微細な点や線を1本1本刻みます。また、背景の細かい彩紋(さいもん)と呼ばれる幾何学模様は、最新のコンピューターを使いデザインしています。一連の作業に関わる工芸官の人数や作業時間は、セキュリティー上公表していません。
重要なのは、偽造されないこと。そのため、原版はわずか1㎜の間に10本以上の超細密な線を刻みます。これほど細かい線を、通常の印刷やカラーコピーなどで再現することは不可能です。工芸官には、高度な技術力はもちろん、細かい作業を続ける集中力と忍耐力が求められています。常日頃から技術を磨くため、人物や風景の彫刻などを試作(習作)し、工芸技術や芸術的感性を磨いています。
お札にはこのほかにも、ホログラム、すき入れ(白黒すかし)、マイクロ文字、特殊発光インキなど、偽造を防ぎ、信用を保つため、特殊な技術をたくさん使って作られています。国民生活に密着した製品を、偽造品かどうか心配せずにいつでもどこでも安心して使えるのは、当たり前のようでいて大変重要なこと。工芸官は、「信用・信頼」をデザインしているのです。
どうしたら工芸官になれるの?
美術系の高校、大学・大学院を卒業・修了している人を対象に、国立印刷局が採用試験を実施。適性試験とデッサンなどの実技試験を行います。就職後、約3年間は基本的な工芸技術に関する研修を行い、その後は業務を通して経験を積みます。