漆(うるし)かき職人
漆とは、樹液からつくった天然塗料のこと。漆の木から樹液を採取することを、「漆をかく」と言うよ。写真は、岩手県二戸市(にのへし)浄法寺町(じょうぼうじまち)の漆林で漆をかいている様子だ。国内漆の生産量の約70%が岩手県二戸地域で採取されているんだって。漆の木と向き合う漆かき職人の奥深い世界をのぞいてみよう。(写真提供/岩手県二戸市役所漆産業課)
木に傷をつけて樹液を採取。漆は国宝の修復に使われることも
漆の樹液を採取するのが、漆かき職人の仕事です。漆の木に専用カンナで一文字に傷をつけると、数秒後には、傷からジワジワと乳白色の樹液がにじみ出てきます。この樹液をヘラで1滴ずつすくい取って樽に入れる地道な作業を、朝から夕方まで行っています。
1本の木から1年に採れる漆の量はわずか約200gで、牛乳瓶1本分ほど。ほんの少ししか採れないうえ、うまく傷がつかないと、漆は樹液を出さないこともあります。そのため、木の状態に合わせて、カンナの角度、傷を入れる深さや長さなど、さまざまな調整を行いながらかくことが必要に。漆かき職人の技術によって、色、粘り、乾く速度、香りなど、採れる漆の質が変わります。そこが腕の見せどころであり、仕事の難しさでもあります。
1日に回る木は、約50本が目安です。一度漆をかいた木は3〜4日休ませるというように、木を“仕事のパートナー”として大切に扱っています。木のコンディションを見ながら、漆をかくときは、子を思う親のような気持ちで接し、樹液をすくうときは、親の無償の愛を受けているような気持ちになるといいます。
漆は、汁わんやご飯茶わんなどの漆器のほか、家具や楽器などに幅広く活用されています。それだけでなく、日光東照宮などの国宝や重要文化財の修復にも使われています。自分のかいた漆が世界遺産に貢献する誇らしさや、身の引き締まる緊張感が仕事のだいご味です。
どうしたら漆かき職人になれるの?
日本うるし掻き技術保存会では漆かき職人を募集しており、6カ月間の長期研修のほか短期研修もあります。学歴は関係なく年齢不問ですが(おおむね60歳まで)、体力や根気、手先の器用さも多少は必要。
漆を採取する時期は6~10月で、それ以外の時期は、漆器制作やアルバイトなど、人それぞれ活動をしています。