潜水調査船のパイロット
「しんかい6500」は、水深6500mまで潜れる潜水調査船だ。日本近海に限らず、太平洋、大西洋、インド洋などで、海底の地形や地質、深海生物などを調査。現在運航中の大深度まで潜れる有人潜水調査船は、世界でも7隻しかないんだって。潜水調査船の船長は、「パイロット」と呼ばれているんだよ。
海底では、操縦、研究サンプル採取などをこなし、陸上では船の整備も
2013年4月「しんかい6500」は、ブラジル沖サンパウロ海嶺で、水深4204mで鯨骨げいこつを発見。鯨骨に群がる生物は、ゴカイ、コシオリエビ、巻貝、ホネクイハナムシなどの新種と思われる41種にのぼり、その研究成果は大きなニュースになりました。
貴重な研究成果を生み出す「しんかい6500」の定員は3名。パイロット、パイロット補佐、研究者が乗り込みます。
パイロット……潜水船の操縦のほかはもちろん、調査場所にどれくらいとどまって次にどこへ向かうかなど、潜航調査にかかわる判断や、万が一潜水船にトラブルが発生した場合も含め、深海での潜水船の活動に対して、船長として全責任を負います。陸上では、潜水調査船の整備も担当。調査航海のための準備として、観測機械の取り付けや調整なども行います。
パイロット補佐……パイロットの指示で、機械の操作や監視、ときには操縦もサポート。
研究者……潜水調査船の窓から海底の観察、カメラやビデオで海底の様子を撮影、研究用の装置を操作します。
6500mまで潜る場合、海上との往復に約5時間かかります。一回の潜航時間は8時間なので、海底での作業時間は約3時間しかありません。
限られた時間との勝負、船内は狭いため、パイロットは腹ばいの寝そべった体制でのぞき窓から外を見ながら、ロボットハンドを操作。深海生物や、岩石、泥など深海の貴重な試料を採取します。
ほとんどの海底は、泥に覆われていますが、海底には山や谷、丘や盆地、火山もあります。船体が泥に沈み込んだりしないように注意しながら複雑な地形に対応して操縦しますが、一番注意すべきは自然の地形よりも、ロープや漁網などの人工ゴミなのだとか。潜水調査船のプロペラや構造物に絡むと浮上できなくなることもあるので、水中を漂うレジ袋にでさえ、パイロットの判断で潜航をあきらめることもあります。
潜水調査船パイロットは、どんな人がやっているのかな?
小型船舶一級操縦士の国家資格が必要です。
JAMSTECや運航委託先の民間会社に入社したのちに、潜水調査船の点検や機械整備を勉強。パイロット補佐としての乗船履歴、数百時間に上る座学などを経て、一人前のパイロットになるまで7~8年かかります。