筆耕士(ひっこうし)
誰もが一度は目にしたことのある賞状や招待状の美しい文字は、ほとんどが筆耕士によって書かれているよ。デジタルで整えた文字にはない温かみや、手書き=ひと手間かかっているという丁寧さは、人間の筆でなければ表現することは難しい。そんな文字を書く筆耕士は、人の心を筆で表す文字の達人だ。(写真提供/筆耕青雅)
手書きで代筆し、“ひと手間”の心遣いを表現
依頼者の代わりに、筆で文字を書くのが筆耕士の仕事です。学校関係の卒業証書の名前や結婚式の招待状の宛名など、一生の記念になるものには、手書き文字の重みや存在感が欠かせません。その他、企業のあいさつ状、お礼状の宛名、年賀状、賞状、祝辞、弔辞、席札、手紙文、表札、看板、ウェルカムボード、企業理念、胸章やトロフィーのリボンの名前、新生児の命名書など、あらゆるものを書いています。スポーツや歌の大会といった、賞状をその場で渡すイベントでは、現地で名前や日付を入れることもあります。
筆耕士は、癖がなく読みやすい字で美しく書くことが求められます。その上で、表彰状は、書いた文字が汚れないように左側から書きます。ひらがなを漢字より少し小さくまとめると、見栄えがよくなります。
宛名書きは、切手を貼る位置を配慮し、消印と文字がかぶらないレイアウトを考えます。結婚式の招待状では、お祝い事なので特に濃い墨を使うことが原則。薄墨は、「涙で墨が薄まった」という悲しみを表現する意味があるので、気をつけなければいけません。
春と秋の頃はブライダルの繁忙期で、ひと月で約千枚の招待状の宛名書きをします。12月も年賀状の宛名書きがあり、めまぐるしい忙しさです。
どうしたら筆耕士になれるの?
よく勘違いされますが、筆耕と書道は違うので、「書道○段」といった経験だけでは、筆耕士にはなれません。まずは書道で毛筆の基礎を学び、字形の整え方、小筆で書く力をつけます。また、賞状技法の講座などを受け、封筒の宛名の小さな文字を美しく書く技術や、レイアウトの取り方も学ぶ必要があります。その上で、筆耕会社などで実務経験を積んだのち、独立して在宅で仕事をする人も増えてきました。一方、専門の部署がある大手ホテルやデパートに勤務する人もいます。