お客さんの肩幅をメジャーで測っているあのひと、何してる?

2025.10.22 あのひと何してる?

フィッターが採寸をしている画像

フィッター

スーツでビシッとキメた大人を見て、カッコいいと思ったことはないかな。スーツには、あらかじめ完成した状態で大量生産される「既製品」と、お客さんの体形や要望に合わせて作る、たった1着の「オーダーメイド」に大きく分かれるんだ。フィッターは、オーダーメイドのスーツや冠婚葬祭で着る礼服などを作るときに活躍するよ。写真は、仮のスーツを調整している様子なんだって。(写真提供/株式会社 英國屋、撮影地はいずれも東京都中央区)

「こんなスーツが着たい」を形にする仕立ての専門家


多くの技術者の手で丁寧に作られるオーダーメイドのスーツは単なる服ではなく、“社会からの信頼を得られる装い”です。そのため、国会議員や大企業の社長、プロのスポーツ選手、芸術家など、大きな責任を伴う仕事に就いている人や、個性を大切にする人などに好まれています。

フィッターの仕事道具の画像

角尺(かくじゃく)、ピン、ピンクッション、針、指ぬき、メジャーなどの仕事道具を使いこなす。国立国会図書館でスーツの関連本を読み、通勤中にスーツ姿のビジネスマンを見たり、SNSで情報収集をしたりして、常に研究を欠かさない

オーダーメイドのスーツ作りは「接客(デザイン決めなど)」「採寸(さいすん)とフィッティング」「生地を裁断する」「生地を縫う」という4つの段階に分かれ、それぞれ専門的な技術者が担当しています。


フィッターが担当しているのは「採寸とフィッティング」。お客さんの仕事や立場をくみ取り、「どう見られたいか」など人に与えたい印象を聞き取って、スーツの土台を作ります。


仕事の手順は、メジャーで体の寸法を測る「①採寸」、体形や寸法に合わせて服の設計図をつくる「②型紙づくり」、生地を裁断してしつけ糸で縫った“仮のスーツ”を着てもらい、体に合うよう調整する「③仮縫い」の大きく3つあります。


採寸では、肩幅や腕の長さなど15カ所以上を測ります。これら「数字による情報」に加え、お客さんの体を目で観察し、手で触ったときの「感覚」も必要です。人の体は左右対称ではなく、利き手の方が長くなるなどの違いがあるため、体に触れながらその人の体のクセなどを確認するからです。

フィッターが型紙を作成している画像

お客さんの寸法に合わせて、型紙を作製中。近年は、ややタイト目でスッキリとした印象のシルエットが人気だそう

フィッターが重視するのは、体になじむ着心地の良さやシルエットの美しさです。例えばスカートやパンツの仮縫いでは、普段履いている靴のヒールの高さに合わせて裾の長さを調整します。さらにスーツの下に厚手の肌着や腰に巻くサポーターなどを着用していると知れば、その分ゆとりを持たせた採寸と仮縫いで動きやすさを実現します。


お客さんの要望通りの1着を作るには、高いコミュニケーション力が欠かせません。近年多いのは、「カッコいいスーツを作ってほしい」というリクエストです。人それぞれに「カッコいい」のイメージは違うので、お客さんに合わせて話すスピードや内容を変えながら、より具体的な要望を引き出します。お客さんが抱くイメージを形にすることは簡単ではありませんが、プロとしての腕の見せどころでもあります。


こうして「完ぺきな仮の1着」ができたと思っても、体にフィットした希望に合うスーツになっているかは分かりません。お客さんが試着して満足するまで、気を抜くことはできないのです。そんな厳しい仕事の中で、毎日のように新しいお客さんと出会い、あらゆる体形のスーツを作る工程の一つひとつが貴重な経験で、成長できる実感があると言います。


オーダーメイドのスーツは時間をかけて仕立てるので、お客さんにとっては仕上がりを待つ間のワクワク感も含めた「体験」といえます。フィッターは、その高鳴る気持ちも大切にしながら仕事と向き合っています。

どうしたらフィッターになれるの?


服飾系の大学や専門学校で技術を身につけた後、オーダースーツ専門店や紳士服メーカーなどに就職し、技術と経験を積むのが一般的です。何かを作ることや、手を動かすことが好きな人が向いています。

協力/株式会社 英國屋 銀座一丁目店 林亮太さん

取材・文/内藤綾子