巨大な荷物を背負って山道を歩いているあのひと、何してる?

2022.07.31 あのひと何してる?

歩荷(ぼっか)

写真は、群馬・福島・栃木・新潟の4県にまたがる日本最大の山岳湿原「尾瀬国立公園」。ここには、巨大な荷物を背負う歩荷がいるよ。主に背負子(しょいこ)と呼ばれる荷台に、箱詰めした荷物を何段もくくりつけて背負うのが定番のスタイル。段ボ-ル箱10個なら高さ約2mになることもあり、後ろ姿が「荷物が歩いてる!?」ように見えることから「歩荷」と呼ばれているんだって。(写真提供/日本青年歩荷隊)

100㎏超の荷物を歩いて届ける“山の鉄人”


車の入れない山小屋や、ヘリコプターが着陸できない山岳地帯などへ、歩いて荷物を運ぶのが歩荷の仕事です。尾瀬には20軒の山小屋がありますが、歩荷は片道約3~11㎞離れた麓(ふもと)の問屋から、食料・生活用品や燃料などを運んでいます。

太ももやふくらはぎが張るので、保冷剤などでのアイシングと毎日のストレッチは欠かさない

横に幅広い業務用のエアコンを運ぶ様子。荷物は腰より高い位置で背負ったほうが体への負担が少ない

荷物の重さは70~90㎏が平均的で、重くて140kgになることもあります。一度に持っていける荷物には限りがあるので、1日に数回往復することも珍しくありません。荷物の重心が高いので、少し滑っただけで簡単に転倒することがあり、歩くときは細心の注意を払います。腕を振ると重心が動いてバランスが崩れるため、腕組みをする独特なフォームをとります。また、足の親指の付け根(母指球)に重心が乗るように歩くことを心がけています。


山小屋以外にも、山中にある電波の中継局や鉄塔へ届ける資材、自然調査用の観測機材や避雷針、テレビ番組の撮影機材など、荷物は多岐にわたります。4000万円もする高価なドローンを運搬したり、珍しいところでは、山頂に設置する祠(ほこら)や神さまをまつる社(やしろ)を運んだりすることも。また、道案内の標識など長さのある荷物は横にして運ぶため、横向きに歩くこともあります。


山の天気は変わりやすいので、雷に注意することはもちろんですが、歩荷が最も嫌うのが風です。山には遮るものがないので、風が正面から荷物に当たるとバランスを崩して転倒するため、直進せず左右に移動したりしながら上手に風をよけて歩きます。


体力的にはキツい仕事ですが、毎日移り変わる山の景色を楽しめるのは歩荷ならでは。山小屋へ到着すると「ありがとう!」の声に出迎えられ、達成感を味わうことができます。こうして毎日届けられる物資によって、登山者は山で快適に過ごすことができるのです。

どうしたら歩荷になれるの?


尾瀬や白馬岳など、全国でも限られた場所の山小屋や歩荷隊で募集しています。シーズンオフになると別の仕事をして、歩荷と兼業している人もいます。

協力/日本青年歩荷隊

取材・文/内藤綾子