伝統的な仕事って憧れるけど、どんな世界なの?

2021.02.26 おしごと映画

しごとについての質問

「伝統的な仕事に憧れます。周囲にそういう人がいないけど、どんな世界なんだろう?」(12歳・女子)

中山治美(なかやま はるみ)さん 

スポーツ新聞記者を経て、フリーの映画ジャーナリストに。映画サイト「シネマトゥデイ」ほか、多数の雑誌で連載。世界の撮影スタジオ、映画祭を取材中。

継承することだけじゃなく、進化を遂げているのです


『ハルカの陶』

監督:末次成人

出演:奈緒、平山浩行、村上淳 /笹野高史

発売元・販売元:ニューマーク株式会社

価格:DVD 3,900円(税別)

©2019 「ハルカの陶」製作委員会

『花戦さ』

監督:篠原哲雄

出演:野村萬斎、市川猿之助、佐々木蔵之介

発売:東映ビデオ

価格:DVD 4,700円(税別)

©2017「花戦さ」製作委員会

そうですよねぇ。歌舞伎のように子孫が代々継承していく世襲制が基本の世界もあるし、伝統的なお仕事って、なんとなく敷居が高そう。身近に関係者がいない限り飛び込む方法はわかりませんよね。


質問者はまだ具体的に職種を決めているようではないので、ここでは伝統工芸にあたる‟やきもの”を創作する陶芸家の一例を紹介します。漫画家ディスク・ふらいの同名コミックを原作とした映画『ハルカの陶(すえ)』です。


主人公は東京で会社勤めをしていた、はるか(奈緒)。ある日、会社の上司のお供で百貨店を訪れていた時に、展示会で飾られていた千年の歴史を持つ岡山のやきもの・備前焼の大皿に魅了され、その世界に飛び込んでいくという物語です。


一般的に陶芸家への道は、大きく2つあります。1つは美術系の大学や専門学校で学ぶ方法。もう1つは、陶芸家に弟子入りすること。岡山県には、県内の備前焼作家らで構成された備前焼陶友会(とうゆうかい)が運営する研修施設「備前陶芸センター」もあるのですが、気持ちが先走ってしまったはるかが取ったのは後者の方。大皿の作者・若竹修(平山浩行)の元へ行き、弟子入りを志願します。


なんとか“弟子見習い” として修のもとで学ぶことになったはるかですが、学校のように手取り足取り基本を教えてもらえるわけではありません。備前焼に限らず、多くの伝統を継承する職業で大切なのは師匠の仕事を“見て、感じとること”。加えてはるかは、備前で暮らすことで、土を練って火で化学反応を起こして作るやきものがなぜこの土地に根付き、人々の暮らしと共に息づいてきたかを肌で知ることになります。


特に備前焼は実用品であり、使い込むうちに味わい深さが増してくると言われています。伝統って、ただ大事に継承することだけじゃない。今の私たちの暮らしで生かされてこそなのだ、ということも本作が教えてくれるでしょう。


もう1作、日本のあらゆる伝統文化が集結したような映画をご紹介しましょう。時代劇『花戦さ』です。主人公は華道の家元・池坊(いけのぼう)の当主として、戦国時代に活躍した初代・池坊専好(せんこう)です。


彼が文禄3年(1594年)に、豊臣秀吉も同席していた場で「大砂物(おおすなもの)」という立花(りっか)を披露した伝説に着想を得て執筆された、作家・鬼塚忠の小説『花いくさ』」が原作です。秀吉はのちに天下人となり、気に入らないモノは即、処罰。友情を築いていたはずの茶人・千利休にも刃(やいば)を向けるようになります。そんな秀吉の乱心を専好が、花を使って戒めるという痛快ストーリーです。


劇中に登場する生け花は全て、華道の家元である池坊が監修しましたが、華道の歴史と魅力を伝えるだけではありません。なにせ主演の野村萬斎は、狂言方和泉流(きょうげんかたいずみりゅう)の能楽師で、秀吉役の市川猿之助は歌舞伎俳優とどちらも伝統芸能の担い手です。さらに現代アーティストの小松美羽が見事な襖絵を、題字を注目の書家・金澤翔子が担当し、日本伝統の時代劇に新たな風をもたらしています。こうして進化を遂げながら受け継がれてきた伝統の技と精神が、今の私たちの心にも感動を与えてくれるのです。そんな伝統の魅力に気づいたあなた! サイコー!!